TECHNICAL JOURNAL
AIでイベント会場の図面は作れるか? 公開平面図から2D配置案と3Dプレビューを試す
大阪市の公開平面図を手がかりに、AIとコードでイベント会場の配置案を作り、同じ座標から2D図と簡易3Dを表示しました。できたこと、元図との差、現場で確認すべき条件を国内外の事例とともに記録します。
検証環境
- 大阪市『ホール平面図等』、2026-09-25確認
- ChatGPT Workによる配置案・ブラウザー表示コードの試作、2026-09-25
イベントの準備では、平面図だけを見ても展示ブースの密度や舞台との位置関係をつかみにくいものです。配置案を動かすたびに図面と完成予想図を作り直すのも手間です。AIに会場図のたたき台を作ってもらい、同じ配置を立体でも見られたら、設営前の打ち合わせが進めやすくなるでしょう。
大阪市が公開する「すみのえ舞昆ホール」の平面図を題材に試したところ、確認済みの寸法から2Dの概略配置案を作り、同じ座標で簡易3Dに表示するところまでできました。 一方、公開図にない高さや正確な扉位置をAIが補えば、見た目が整っていても実際の会場とは異なります。この記事では入力、試作結果、国内外の先行事例を分けて紹介します。
目次
課題:図面の数字を保ちながら、配置の見え方も確かめたい
会場図に求める精度は使い道で変わります。社内で展示の方向性を検討する概略図なら、什器の場所と人が通る余白が見えれば議論できます。施工や避難計画に使う図面には、開口、段差、設備、適用される条件の確認が必要です。
当社には、3D制作ソフトのBlenderをスクリプトで操作し、架空のイベント会場を組み立てた試作もあります。そちらは会場の雰囲気を見せるためのモデルで、実在会場の平面図をAIで変換したものではありません。今回は、公開図に記された寸法を起点にする作業を試します。
公開平面図で確認できた寸法を保ちながら、仮の会場レイアウトを2Dと3Dの両方で確認できるかを試しました。画像を一枚生成して終わらせず、什器ごとの位置と大きさを数値で持ち、表示のたびに同じデータを使います。
検証条件:大阪市の公開平面図を概略モデルにする
題材は大阪市住之江区のすみのえ舞昆ホールの案内です。市は「ホール平面図等」をCC BY 4.0で公開しています。舞台のある多目的ホールを、小規模展示・説明会に使う想定で配置を考えました。この催事は試作用に設定した架空のものです。
表1 すみのえ舞昆ホールの公開図と、試作で置いた条件
| 入力した情報 | 今回の扱い |
|---|---|
| ホール平面図の寸法表示:22.4m × 26m | 客席側を長方形で近似する。柱や細かな凹凸は省く |
| 同図の面積表示:586.98㎡ | 元資料の値として記録。近似長方形の面積とは同一視しない |
| 舞台:間口13.4m、奥行6m | 舞台が右側に来る向きに原図を回して表示する。模型上の高さ0.55mは仮定 |
| 正面出入口、舞台両側の控室 | 入口を左側へ仮置きする。控室は描かない。開口幅と正確な座標は未確認 |
| 展示ブース16区画、受付 | 今回の試作用に考えた仮設物。実在の設備ではない |
| 仮の入口幅3m、入口前の空き2m、中央通路幅3m | 干渉チェック用に置いた試作条件。会場の規定値ではない |
22.4×26は582.4㎡で、原図の面積表示586.98㎡と4.58㎡異なります。ホールを一つの長方形に近似したため、原図の細かな形状は反映していません。モデルを「原図に記載された面積586.98㎡の再現」とは呼べません。この差を残しておくと、現場用の図面へ進む前に原図を見直す理由がはっきりします。
AIには「確認した寸法と仮定を別々に記録する」「会場の什器は位置・幅・奥行・仮の高さで表す」「仮の入口前を空ける」「読み取れない寸法を推測で確定しない」と伝えました。会場の値を人が資料と照合した後、配置データと表示コードの作成にAIを使っています。元のPDFを自動でCAD図面へ正確に変換した実験ではありません。
結果:同じ配置データから平面図と簡易3Dを表示した
客席側の概略矩形に3.1m×2.4mの展示ブースを16区画置き、同じ座標から図1の平面図と図2の簡易3Dを並べて表示しました。AIが支援したのは展示ブースの配置案と、座標から図を描くブラウザー用コードです。舞台とブースの位置関係やブースの密度を、斜め上から確認できます。

図1 大阪市住之江区の公開平面図を基に、舞台が右に来る向きへ回し、寸法と形状を簡略化して仮の什器を加えた配置案。図中の「舞台(固定位置)」は試作品で動かせないという意味で、現地の正確な位置を示すものではありません。原図はCC BY 4.0。図1を拡大

図2 同じ座標を使った簡易3D。ブース高2.2m、舞台高0.55mは試作用の仮定。天井や壁面、実際の視認性は再現していません。図2を拡大
初期配置では、16区画の範囲外へのはみ出し、什器同士の重なり、仮の入口と中央通路への接触はすべて0件でした。1区画を仮の入口前へ動かすと、入口前の空きと中央通路への接触を各1件検出しました。これは定義した長方形同士の重なりを数えた結果で、施設の安全基準を判定した結果ではありません。
試作段階で分かったのは、2Dから3Dへの表示処理そのものより、最初に「どの寸法が資料の事実か」を揃える作業が重要だということです。図に表示した高さは試作用の仮の値です。完成予想の雰囲気と寸法確認を混同しないよう、未再現の設備も図に記しました。
再現手順:座標を一度決めて二つの表示に渡す
- 元の平面図を開き、ホール・舞台の寸法と出入口・控室の有無を確かめます。面積の値も別欄に残し、今回は控室を描かないと決めます。
- AIに展示案を依頼し、各什器をメートル単位の座標と幅・奥行・仮の高さに直します。資料で確認した値と仮の値は混ぜません。
- 座標から平面図の矩形を描き、同じ矩形に高さを加えて簡易3Dを描画します。範囲外や什器同士の重なりをプログラムで確認します。
- 人が元の図面と出力を見比べ、通路幅や出入口の位置、設営条件、必要な申請を会場担当者に確認します。
試作に使った値の一部を抜き出すと、次のようになります。単位はメートルです。舞台のy=6.3は概略図上で中央に寄せた仮の位置で、高さも公開図からは分かりません。
const hall = { w: 22.4, d: 26 }; // 公開図の寸法表示
const stage = { x: 22.4, y: 6.3, w: 6, d: 13.4, h: 0.55 };
const booth1 = { x: 2.2, y: 1.9, w: 3.1, d: 2.4, h: 2.2 };
// stageの位置と高さ、booth1の全寸法は今回の試作用の仮定
この分担なら、配置の候補を考える作業をAIに任せても、寸法の計算と図の描画を再実行できます。操作できる試作品には、配置を動かして2Dと3Dの更新を見比べる機能と、設定した仮の入口前へ区画を動かす機能を入れました。リンク先をブラウザーで開くと、外部ライブラリなしで確認できます。
限界:見やすい3Dでも現場の承認図にはならない
今回の公開資料だけでは、天井高、舞台の段差、壁厚、設備の現況、扉の正確な座標を確定できません。展示台の高さ、通路の広さ、入口周辺の余白は仮案で、避難経路や条例への適合を検証したものでもありません。3Dで視線や搬入を詳しく調べるには、確認済みの高さと実物の什器寸法、現地調査が必要です。
資料の更新日にも注意が要ります。大阪市の現行案内は、スクリーンを撤去した状態で利用を再開したと記載しています。古い設備図にスクリーンが描かれていても、現在の設備として3Dへ反映させる前に現況の確認が必要です。
国内事例:平面図を3D化し、現場の設営に座標を使う
Unity Japanの自社イベントの記録では、運営者から平面図を取り寄せ、現地で測った内容を踏まえてFusion 360などで会場を3D化し、Unityへ取り込んでいます。基礎モデルを作るまでに16時間かかったという一例も示されます。モニターの大きさや誘導サインの見え方を、会場を歩く視点で確かめた点が参考になります。
ミライト・ワンが紹介する2025年の利根川大花火大会では、座席からの花火の見え方を3Dで検討し、点群データの座標を設営時の墨出しにも使っています。主催者と施工側が同じ配置を見て話し、設営時の位置決めにも使うという例です。両事例とも生成AIによる自動作図の報告ではありません。
海外事例:文章からの配置案と、条件による候補の比較
Cventの製品説明には、縮尺のある会場図を基にした図面作成、文章からの配置案生成、2Dと3Dの確認が示されています。製品側も元になる建築図面や実際の什器情報を重視しています。文章を入力すれば、未確認の寸法まで正しくなるわけではありません。
一方、Autodeskが紹介するPopulousの展示施設設計では、区画の大きさなどの条件を、設計案を自動生成するツール「Dynamo」に入力し、複数の配置案を比べています。同社が示す「従来2週間の工程を4時間」は、家畜展示用の1,800区画を配置した案件での報告値です。今回の文章によるAI支援の実測工数ではありません。
3Dで見つかる問題もあります。スイスのStagelightを紹介したVectorworksの事例では、2Dしかない舞台を3Dに起こし、吊り物と構造物の干渉に気づいたと説明しています。AIによる作図事例ではありませんが、高さを確認できて初めて立体表示が役立つことを示します。今回の簡易模型には、吊り物や天井の実寸は入っていません。
学び:寸法の根拠と仮定を分け、2Dと3Dを同じデータで更新する
今回の試作では、公開図の寸法を人が確かめ、AIが仮設物の配置案と表示コードを作り、同じ座標から2Dと3Dを描きました。先行事例を読むと、立体化に使う元図の精度と、最終的にどこまで現地で確かめるかが重要だと分かります。
次に現場で使うなら、会場側から最新の図面と設備条件を受け取り、扉・段差・高さ・通路の条件をモデルに足して再確認します。未確認箇所を図と一緒に共有して、施工や申請に使う版へ進めるかを判断します。
図版の原資料:大阪市住之江区「すみのえ舞昆ホール(住之江区民ホール)ご案内」掲載「ホール平面図等」/CC BY 4.0。株式会社プルスコードが客席側の寸法・構成を簡略化して舞台と仮設什器を加えた試作図です。